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「同和対策長期計画」について


1969年(昭和44)7月8日 閣議了解

 同和対策事業特別措置法の制定に伴って昭和44年度から昭和53年度に至る10年間において行なう同和対策事業についての基本方針及ぴその具体的内容を別添「同和対策長期計画」のとおり定め、その計画的推進をはかることといたしたい。

(別 添)
同和対策長期計画
 同和対策については、昭和40年8月11日の同和対策審議会答申において、同和地区に関する社会的及び経済的諸問題を解決するための基本的方策が示され、当面の課題の一つとして、同和問題の根本的解決と同和対策の効率的な実施のための長期計画策定の必要性がうたわれたが、さらにこれを引き継いで、昭和42年2月25日には、同和対策協議会より同和対策長期計画の策定方針に関する意見が提出されるに至った。

 各省においては、これらの意見の趣旨に沿い、新たに長期計画を策定するため、昭和42年度において全国同和地区について基礎調査を、また抽出地区について、同和対策協議会の委員、専門委員等の協力による精密調査を実施し、この結果を基礎としてここに同和対策長期計画を策定した。

 同和問題は歴史的社会的根源を有する問題であり、一朝一夕の努力をもってこれを解決することはきわめて困難であると思われるが、これは日本国憲法に保障された基本的人権にかかわる問題であり、人類普遍の原理である人問の自由と平等に関する問題である。

 したがって、その早急な解決をはかることは、国及び地方公共団体の責務であり、同時に国民的課題であるといわなけれぱならない。

 政府は、この問題の解決のために、同和対策審議会答申の趣旨を尊重し、英知と勇断をもって不断の努力を続ける決意であるが、他面この問題の真の解決には、国民があげてこれに真剣に取り組む姿勢が不可欠であると信ずるものであり、ここに国民の一致した協力を期待するものである。

I 基本方針

 長期計画は、同和対策協議会の「同和対策長期計画の策定方針に関する意見」に則り、同和地区住民の社会的経済的地位の向上を不当にはぱむ諸要因を解消することを目標とし、このため、同和地区における他の地域との格差の是正をはかるとともに、国民に対する積極的な啓発活動を行なうものである。この計画に関する基本的事項は次のとおりである。
 (1) 長期計画は、昭和44年度を初年度とし10年間を目途として実施する。
 (2) 計画期間を前期と後期に分け、前期を5年間、後期を5年間とする。
 (3) 前期計画においては、施策全般について社会的経済的諸事情を考慮し、必要な調整をはかりつつ、遅れた部門の施策の促進に努める。
 (4) 後期計画においては、前期計画の実施状況に検討を加え、総合的効果的な同和対策の推進をはかる。
 (5) 長期計画の実施にあたっては、国の他の諸計画との関連について考慮を払う。

II 各省別の計画の基本的考え方

1 法務省
 (1) 人権擁護委員の資質を向上する。
 (2) 人権侵犯事件の調査を強化する。
 (3) 人権相談を強化する。
 (4) 人権意識、人権思想の普及高揚を行なう。

2 文部省
 (1) 偏見や不合理な差別をなくすために必要な指導の徹底をはかり、もって同和問題の根本的な解決を期する。(心理的差別の解消)
 (2) 同和地区の児童、生徒及び成人等に対する諸指導の徹底と援助の強化をはかり、もって同和地区の教育的、文化的水準の向上を期する。(実態的差別の解消)
 (3) 上記の心理的差別及び実態的差別の解消を容易にし、かつ、その効果を高めるために必要な諸条件の整備をはかる。(諸条件の整備)

3 厚生省
 (1) 同和地区の生活環境の改善、同和地区住民の保健衛生の向上をはかるため、施設設備等の整備その他必要な施策を行なう。
 (2) 隣保事業の充実をはかるため、隣保館の整備、運営の改善等を行なう。
 (3) 同和地区住民の経済向上対策の一環として、共同作業場とくに大型共同作業場の整備を行なう。
 (4) 社会福祉等の増進をはかるため、社会福祉施設等の整備を行なうとともに、社会福祉関係の諸機関、諸団体等との協調をはかる。

4 農林省
 同和地区の農林漁業は一般地区に比し、経営規模が零細で生産性が低く、また、農林漁業就労者が他産業に就業する機会にも恵まれていない実情にかんがみ、必要な就業対策が溝ぜられるのと並行して、農林漁家が多数存続する同和地区について農林漁業の生産基盤の整備及び経営の近代化をはかるための諸事業を実施する。

5 通商産業省
 同和地区の産業は伝統的な性格が強く、そのほとんどが小規模零細企業で生産性が低い実情にあるので、経営の問題点を明らかにし、適切な助言指導を行なうとともに、企業近代化のため、設備の改善、技術の向上等の措置を講ずる。

6 労働省
 (1) 同和地区出身者に対する職業紹介の組織体制を整備する。
 (2) 新規学校卒業者の近代的産業への就職を促進する。
 (3) 職業訓練を拡充強化して職業能力の開発をはかる。
 (4) 就職の困難な状況にある一般求職者(失業者、転職者)については、就職のための援護措置を充実し、広域にわたる職業紹介を通じて就職機会の拡大をはかる。

7 建設省
 (1) 同和地区の住宅事情の改善及び不良住宅地区の整備改善を一層推進する。
 (2) 都市計画区域内における同和地区の土地区画整理事業、街路事業及ぴ下水道事業を優先的に実施する。

III 各省別の計画の内容

(法務省)
1 人権擁護委員の資質の向上 人権擁護委員の資質の向上と適格者の育成をはかるため、同和地区市町村在住の人権擁護委員に対し、ケース研究会等による研修を行なう。
2 人権侵犯事件の調査の強化 侵犯事件の調査強化のため、職員の研修を充実し、その資質の向上と適格者の育成をはかる。
3 人権相談の強化 人権相談の強化のため、同和地区住民を対象に特設相談所を開設する。
4 人権意識、人権思想の普及高揚 同和問題に関する人権意識、人権思想の普及高揚をはかるため、講演会の開催、ポスター、チラシの配布、広報紙、有線放送、掲示板、回覧板等の利用により常時積極由な啓発活動を行なう。

(文部省)
1 同和教育推進地域の指定 児童・生徒の学力向上、進路指導、学校保健衛生、生活指導及び長欠の解消並びに地域住民に対する啓発活動等の諸活動を市町村教育委員会を中心として集中的に実施する。
2 高等学校等への進学奨励 同和地区の教育水準を引き上げるため、経済的な理由により、修学が困難な者に奨学資金の給付を行なう。
3 同和教育研究指定校の充実 小中学校における同和教育実施上の諸問題について研究し、その成果を公表して同和教育の改善に資する。
4 同和教育指導者の確保、研修等同和教育研究協議会の開催、同和教育に関する指導資料の作成配布等により、同和教育指導者の資質の向上をはかるとともに、府県教育委員会に委嘱して指導者の養成研彦を行なう。また、同和関係学校について教員定数の加配をはかる。
5 同和地区住民に対する社会教育の機会の提供
 (1) 市町村に委嘱し、同和地区における社会教育関係団体を育成する。
 (2)隣保館活動と緊密な連携のもとに同和地区住民を対象とする社会教育に関する学級、講座を開催する。
6 同和地区集会所の整傭等
 (1) 同和地区集会所を整備するとともに、その有効な活用をはかる。
 (2) 市町村に委嘱し、同和地区集会所の指導を強化する。

(厚生省)
1 生活環境の整傭
 (1) 地区道路、下水排水路、橋梁及び街灯整備事業地区道路、下水排水路及び橋梁を、当該市町村の都市計画事業、住宅地区改良事業との関連等を考慮して、総合的計画的に整備する。
 (2) 共同浴場、共同炊事洗濯場及び共同便所整備事業共同浴場を、経営上の見地から、効率的な利用が期待できる50世帯以上の地区について整備するとともに、共同炊事洗濯場及び共同便所の整備を行なう。
 (3)上水道、簡易水道及び共同井戸整備事業飲料水の確保に困難をきたしている地区について、上水道、簡易水道の普及をはかり、また地区の立地条件等により上水道及び簡易水道の給水区域に編入できない地区について、共同井戸を設置して飲料水の確保をはかる。
 (4) ごみ、し尿処理施設及びと場整備事業 ごみ、し尿処理施設の整備にあたっては、同和地区の住民の生活環境の改善に資するよう十分配慮する。なお、このほか、地区の生活環境、立地条件等を勘案し、ごみ焼却炉の整傭についても配慮、する。また、と畜場の汚水、悪臭等が地区の環境を阻害しているところについては、その施設の整備をはかる。
 (5) 火葬場、墓地移転及び納骨堂整備事業 火葬場は広域配置を原則として整備する。また、住宅地内に墓地が散在していること等により墓地が生活環境を阻害しているところについては、移転、集約または納骨堂の設置をはかることにより、地区環境の改善をはかる。
2 隣保事業の充実
 隣保館を、効率的な運営が期待できる50世帯以上の地区について整備するとともに、社会教育と緊密な連携を保ちつつ、地区の実情に即した運営が行なわれるようその充実をはかる。なお、隣保事業関係職員の資質の向上についても配意する。
3 経済向上対策
 同和地区の地理的条件、経済的条件等を勘案して、地区の実情にあった共同作業場の設置を進め、大規模経営の期待できる場合には大型共同作業場の設置をはかる。
4 社会福祉等の増進
 (1) 社会福祉施設等の整備
 保育所、児童館、診療所等の社会福祉施設等の整備にあたっては、同和地区の住民の福祉の向上に資するよう十分配慮する。
 (2) 地域活動の推進
 福祉事務所、児童相談所、隣保館、保健所等の諸機関、社会福祉協議会等民間団体、民生委員等の連携を緊密にし、地区の社会福祉、保健衛生を積極的に推進する。

(農林省)
1農林漁業生産基盤整備事業
 (1) ほ場整傭事業
 農業機械化の基盤を整備するとともに、農業生産力を発展させるため区画整備とこれに附帯するかんがい排水施設の整備等をあわせて行なうほ場整備事業並びにそれぞれの土地条件に応じて必要となるかんがい排水施設の整備、暗きょ排水、農道整備等の事業を行なう。
 (2) 農用地造成事業
 農業生産の選択的拡大をはかるとともに、農業経営の規模拡大と機械化等農業構造の改善に資するための農地の造成事業及び畜産経営の安定向上に資するための草地造成事業を行なう。
 (3) 農地防災事業
農業災害を軽減するとともに、農用地の保全をはかるため、それぞれの土地条件に応じて必要な農地防災、農地保全等の事業を実施する。
 (4) 林道事業
 森林資源の積極的な開発をはかるため、これに必要な林道事業を実施する。
 (5) 沿岸漁業生産基盤整備事業
 沿岸漁業の生産基盤の整備及び開発を目的として築いそ、並型魚礁設置等の漁場造成事業等を実施する。
 (6) 漁港整備事業
 漁業の能率化と経営の合理化をはかり、もって漁業の生産性の向上と漁民の生活の安定向上に資するため、漁港の改修及び局部改良を行なう。
2 農林漁業の経営近代化施設導入事業
 農業、林業及び漁業の経営の近代化を促進し、もって農林漁家の所得の増大に資するため、農林漁業の生産基盤の整備状況とその地域における農林漁業の動向等に即応し、同和農林漁家が共同して利用する作業施設、流通加工施設等の経営近代施設の導入事業を実施する。

(通商産業省)
1 中小零細企業の近代化のための経営指導等の充実
 (1) 同和地区の中小企業の経営の近代化をはかるため、各府県の商工会連合会及び商工会議所に配置されている同和担当経営指導員による経営指導を充実する。
 (2) 同和地区の産業についてその実態を調査し、問題点と改善の方向を明らかにして、その近代化を推進する。
2 設備近代化、協業化等の推進
 1の経宮指導により各地区の産業の実態または企業の実態に沿って設備の近代化、技術の改善、協業化及び組織化等を推進することとし、現行の設備近代化資金制度の活用をはかる等金融の円滑化に努める。

(労働省)
1 新規学卒者に対する職業指導等の強化
 (1 )職業指導モデル校制度を拡充し、職業指導を強化する。
 (2) 職場実地指導及ぴ就職後の職場適応指導を実施する。
2 一般求職者に対する職業紹介の推進
 (1) 同和地区を対象とする巡回職業相談を実施する。
 (2) 事業主に対する啓蒙指導及び受入指導を実施する。
 (3) 広域にわたる求職連絡相談を実施する。
3 就職のための援護措置の充実
 (1) 広域求職活動費、移転資金、帰省旅費、労働者住宅確保奨励金等、広域職業紹介による就職のための手当等を支給する。
 (2) 職場適応訓練を実施する。
 (3) 就職資金制度、身元保証制度の活用促進をはかる。
4 就職促進のための職業紹介組織体制の強化
 同和地区出身者を専門的に担当する就職促進指導官、職業安定協力員の活動の強化をはかる。
5 新規学卒者等に対する職業訓練の強化
 (1) 公共職業訓練施設に対する入所指導を強化する。
 (2) 同和地区居住者の入所に便利な公共職業訓練施設を増設する。
6 一般求職者に対する職業訓練の受講推進
 同和地区の失業者、転職者等一般求職者の就職機会の拡大をはかるため、職業訓練の周知徹底、公共職業訓練施設外における比較的短期間の委託訓練、速成訓練の実施等を行なう。

(建設省)
1 住宅事情の改善及び不良住宅地区の整備改善
改良地区指定基準を緩和し、不良住宅15戸以上、不良住宅率50%以上の地区において住宅地区改良事業の実施を可能ならしめるとともに、住宅改修資金の貸付限度額の引上げを行なう。
2 土地区画整理事業等の推進
 土地区画整理事業、下水道事業等については、府県、市町村等の要望に従い、従来と同様一般枠の中において優先的に取り上げて事業を実施する。

IV 財政措置等
 国は、この計画が円滑に実施され、所期の目標が達成されるよう必要な措置を講ずるとともに、地方公共団体がその実情に即した方鹸を講じうるよう適切な指導をする。
これがため、実情に即し国庫補助金の改善をはかるとともに、これに伴う地方負担分について地方交付税及び地方債により適切な措置を講ずるものとする。
 また、地方公共団体は、国の計画に準じて同和対策を総合的計画的に実施するように努めるものとする。
 なお、この計画の円滑な実施のためには、国民の深い理解と同和地区住民の自主的な努力が期待されることはいうまでもない。