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そんな言いかたってあるの!


 平成8年6月、ビルメンテナンス会社の清掃職員が差別発言事件を起こしました。事件は、この企業が清掃を請け負っているビルで起こりました。イベントの後始末をしていた清掃職員にビル管理の職員が口きたなくその人をとがめたのでした。

 注意のしかたがあまりにもひどかったので、この清掃職員は反論しようと思ったのですが、反論すればケンカになると思い、ここは思いとどまって引き下がりました。

 しかし、その人はどうしても納得がいかなく、一人でビル管理事務所へ抗議にいきました。その人は、事務所で自分が受けた仕打ちに抗議するなかで、「私はおたくの職員からひどいことを言われたが、あんな言われ方をこれまでにされたことがない。私が部落の人間やったらボロクソに言われても仕方ないと思うけれども、私は部落の人間とちがう」と言ったのです。

 その人は、自分の職業に対する差別に対して、部落差別で応酬したのです。

 今回の事件では、この企業の社員が部落差別をする一方で、自分たちも職業による差別を受けているということもあり、調査の結果、同和問題についての理解の乏しさが浮き彫りになるとともに、社員が職業差別を受けていること、また、職場内に「いじめ」があることも明らかになってきました。

 このことから、この企業では、次の3点を啓発の柱として学習に取り組んでいきました。
@ 同和問題に対する正しい理解と認識
A 職業差別に対する克服
B 「いじめ」のない明るい社会づくり

 この企業では、なぜ、わが社が同和問題や人権問題に取り組むのかについて、社員の理解を得ることから始めました。

学習するなかで、
「部落、部落と言いすぎるから、かえって差別が起こるのではないか」とか、「なぜ、同和地区だけが良くなるのか、これでは私たちの方が差別されていることにならないのか……」等の意見が出されましたが、啓発ビデオを使ったりして学習を進めました。また、社員が仕事に対する自信と誇りを持つことをめざして、「一生けんめい生きている自分が好きだ」という気持ちを育てるよう研修しています。
 
 自分を否定するのでなく、肯定的に認め、自分自身に自信を持ち、自分を価値ある人間と思えるようにしていくことです。自分自身を大切にできない人に、他人を大切にしなければならないという思いは起こりません。
 「どうせオレなんか、どうせ私なんか……」と思えば、相手や被差別の人々への共感など持てるわけがなく、ただ恨みつらみのはけ口としてねたみや反感を抱き、いじめや差別をしてしまうことにつながりかねません。
 こうして、とにかく自分たちに関わることですので、一人一人の心の変容を求めてねばり強い努力が続けられています。

(兵庫県人権啓発協会「人権意識を高める新たな啓発手法をめざして」より)