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子ども虐待防止の手引き

平成9年に厚生省(現:厚生労働省)が監修し、子ども虐待防止の手引き編集委員会により編集され、
社会福祉法人恩賜財団母子愛育会日本子ども家庭総合研究所
から発行されているものから抜粋してを転載したものです。
研究所は:106−8580 東京都港区南麻布5−6−8



 
はじめに
子ども虐待とは
  子ども虐待についての認識
  子ども虐待のとらえ方
  子ども虐待のタイプ
  子ども虐待の実態
  子ども虐待への対応のむずかしさ
 なぜ虐待がおこるのか
  子ども虐待の発生要因
  虐待の発生の可能性を高める要因(リスワ要因)と虐待を防止するようにはたらく要因(補償要因)
 虐待に気づくために
  相談にきたときの親と子の状況
  それぞれの場での気づき
  虐待を疑ったら、児童相談所に通報しましょう
  緊急度の高い場合
 発見から援助までの流れ
  虐待を疑ったときか、相談・施設入所までの流れ
  通報した後どうなるか
  施設でどういうケアを受けるのか
 関係機関の役割
  関係機関と種類
   保育所
   福祉事務所・家庭児童相談室
   児童委員・主任児童委員
   乳児院
   養護施設
   里親
   障害児施設
   保健所・保健センター
  児童虐待防止協会・子どもの虐待防止センターなど
 連携、協力のポイント
  一堂に会することの必要性
  子ども中心に考える原点を大切にする
 援助のポイント
  親や家族への支援
  子どもへの支援
 おわりに



 はじめに−子ども虐待への理解を深めよう−

 あなたは、子ども虐待のケースに関わったことがありますか。

 まだ子ども虐待のケースに関わりをもったことがない方もおられるでしよう。また、子ども虐待のケースに関わり、対応に苦慮した経験をお持ちの方もあるかと思われます。

 児童相談所等の相談機関、保健所や病院等の保健・医療機関では、近年、子ども虐待のケースの相談を受けることが多くなっています。

 子ども虐待については、児童相談所などの公的機関で対応されてきましたが、ボランティア団体などの民間レベルによる取り組みも各地ではじまりました。平成8年(1996年)には、虐待の問題にかかわる人たちの手で「日本子どもの虐待妨止研究会」という全国的な組織も発足しました。

 虐待は子どもの心身にたいへん深刻な影響を与えます。また、虐待への対応は、しばしば、困難さを伴います。ですから、私たちは、この問題にもっと関心を向け、理解を深める必要があります。

 この「手引き」は、日頃、子ども虐待に関わることの多い、地域における福祉関係の機関や教育・保健・医療機閑などに従事する方々を対象に、子ども虐待やその対応について理解していただくために作成されたものです。

 この「手引き」をとおして、子ども虐待についての理解が深まり、それぞれの地域でより一層積極的な取り組みがすすむことを期待します。


1 子ども虐待とは

1)子ども虐待についての認識

 子ども虐待についての認識がすすんだのは、1960年代初めの、アメリカの小児科医ケンプらの「殴打された子どもにみられる症候群」(バタード・チャイルド・シンドロ−ム、わが国では「被虐待児症候群」と訳されることが多い)の報告によるといえます。ケンプらは、子どもの外傷には親が故意に与えたものが少なくないということを主張したのです。

 はじめは、親が子どもを虐待するという主張はなかなか受け入れられなかったようですが、しだいにそのような事例がまれではないことが明らかになりました。1970年代になると、性的虐待がまれではないことが知られるとともに、具体的な暴力をともなわない心理的虐待や保護の怠慢・養育の拒否(ネグレスト)も子ども虐待(チャイルド・アピユーズ)に含めて考えられるようになりました。最近では、ネグレストを強調するために、虐待とネグレストの上位概念としてマルトリートメント(不適切なかかわり)ということばが使われることもあります。

 す我が国では、これまで、子ども虐待への関心は一部の関係者に限られていたといえます。しかし、平成6年(1994年)に「児童の権利に関する条約」が批准、発効したことを契機として、多くの人が関心を向けるようになってきました。

 子ども虐待は社会に顕在化しにくいという特質があるため、早期発見、早期対応が何よりも大切です。その定めには、国民一人ひとりがもっと子ども虐待に関心と理解をもつことが求められています。


2)子ども虐待のとらえ方

 子ども虐待について関心が高まってきているとはいえ、子ども虐待の定義については、まだ関係者の間で一致をみていません。そのために、実際の対応においても、関係者によって、例えば虐待とみるかみないかなど、とらえ方がちがい、処遇方針が合わないなどの問題がしばしば生じます。

 そこで、子ども虐待に対する認識を同じくする必要があります。

 虐待のタイフについては、次のページに述べるように、具体的虐待、性的虐待、心理的虐待、ネグレスト(放置、保護の怠慢)の4つに分類するのが一般的です。

 虐待といっても、決して、殴る、蹴るなどの身体的暴力によるものだけではなく、身体的暴力をともなのない心理的虐待やネグレストも含むものであることを強調しておきます。

 なお、子ども虐待とは、一般に、親(または親に代わる保護者)による行為と考えられますが、最近では、学校の教師や児童福祉施設の職員など、親に限定しないで、「おとな」による子どもへの不当な行為を子ども虐待とする考え方もあります。



3)子ども虐待のタイプ

 子ども虐待のタイプは、一般的には次のように分類されます。

@身体的虐待・・・殴る、蹴る、投げ落とす、首をしめる、溺れさせる、逆さつりにする、タバコの火を押しつける、毒物を飲ませるなど、子どもに対する身体的な暴力。

A性的虐待・・・子どもに性交をしたり、性的行為を行うこと。父親(実父、継父)が娘を対象にすることが多い。兄が殊にというようにきようだいの間でおきることもあります。家庭外で、知人や見知らぬ人から性的暴力を受けることを性的虐待とみることもできます。

B心理的虐待・・・「おまえなんかどうして産んだんだろうね」などと言ったり(ことばによる脅かし)、子どもからのはたらきかけに応えなかったり(無視)、拒否的な態度を示すことで、子どもの心を傷つける(心理的外傷を与える)こと。

Cネグレスト(放置、保護の怠慢)・・・健康状態を損なうほどの不適切な養育、あるいは子どもの危険についての重大な不注意。例えば、家に監禁する、学校に登校させない、重大な病気になっても医者に連れていかない、十分な栄養を与えない、ひどく不潔なままにする、などです。親がパチンコをしている間、乳幼児を自動車の中に放置し、熱中症で子どもが死亡したり、誘拐されたりする事件も、ネグレストの結果といえます。


4)子ども虐待の実態

 子ども虐待は決してまれではありません。


 全国の児童相談所の養護相談の中にみられる虐待ケースは年々増加しており、平成7年度には年間2,722件に達しました。ただし、これはあくまで児童相談所で「虐待」として相談を受けた件数で、病院や保健所などの専門機関で相談をしていながらも児童相談所に通報されていないケースや、専門機関に発見されず潜在しているケースも多いと考えられます。

児童相談所における虐待を主訴とする相談処理件数の推移 (厚生省報告例)
()内は平成2年度を100とした伸び率


5)子ども虐待への対応のむずかしさ

 虐待のケースにかかわったことのある人は、この問題への対応がいかにむすかしいか、実感されていることでしよう。あきらめす、ねばりづよく、しかも適切な対応が求められます。

 子ども虐待のケースのむすかしさは、しばしば虐待をする家族は「多問題家族」といわれるように、多くの問題をかかえていることにあります。一人の専門家、一つの機閑だけでは決して十分な対応ができす、多くの分野の専門家がチームを組み、連携をはかることが必要ですし、これが必ずしも容易なことではないのです。

 対応のむずかしさのもう一つの要因は、子どもを虐待する親の心の問題の深さです。虐待の発生要因については次章で述べますが、子どもを虐待する人は、自分自身が虐待を受けて育ってきたことが少なくありません。それまでの生育歴がら人への不心感、被害感がつよいために、相談に応じる人との関係も容易には成立しません。とくに相手が、事務的、高圧的な態度をとったりすると、不信感を一挙につのらせ、相談に来なくなったり、会うことを拒否したり、転居したりすることもまれではありません。

 虐待は親から子へと伝えられる(世代間伝達)といわれます。親が虐待をやめ、子どもが親になったとき虐待をしないよう、虐待の連鎖を断ち切るためにも、慎重でねばりづよい対応が求められるのです。


2 なぜ虐待がおこるのか

1)子ども虐待の発生要因

 なぜ親が子どもを虐待するのでしよう。

 虐待といっても、いろいろなタイプがあり、また個々のケースによっても特徴があります。

 虐待の原因(発生要因)については、特定の要因を強調するいろいろな考え方がありました。しかし、最近では、複合的なものであると考えられています。14ヘージの図は、そのような複合的な要因を模式的に表したものです。

 この図にもとついて、子ども虐待の発生要因を考えてみます。


@親の生育歴の問題
 子どもを虐待する親の中には、親自身が虐待を受けて育ってきた場合が多いといわれています。虐待を受けて育つことは、他者への不信、自分への不信や低い自己評価をもたらします。安定した人間関係がもちにくいのです。暴力を受けた休験は、自分が子どもを育てるときに再現しやすく、子どもに暴力をふるいやすくなります。また、親から得られなかった愛情と信頼を、わが子との関係で満たそうとします。つまり、子どもに愛してもらいたいという、親子の役割逆転をもたらすのです。

A家庭の状況
 家庭では、夫婦関係が不安定で、たがいに理解し、支え合うという相互的なものではなく、一方が支配し、その配偶者は服従するというような関係になりがちです。配偶者はしばしば虐待を黙認しています。

 職場でもしばしばトラブルを起こします。その結果、定職をもてず、そのために経済的な困難を生じます。

 また、若くして結婚して、心理的に親になりきれていない場合、子育てからくるストレスがらわが子を虐待することもあります。さらに、アルコール性疾患や精神的な問題をもっているために家庭が不安定となり、ストレスのつよい状況におかれる場合もあります。生活への不満やストレスはいらだちや暴力を引き起こしやすいのです。

B社会からの孤立
 近隣との関係においても、トラブルを起こしたりするために、孤立しがちです。しばしば、親族との関係もなくなっています。弧立することは、虐待の発見を妨げ、あるいは虐待の深刻化をうながすことになります。

C子ども自身の要因l
 虐待の発生には、子ども自身の要因も関係していると考えられます。よく泣き、しかもなだめにくい子や、要求をつよくあらわし、そのことにこだわりやすい子がいます。しばしば「手のかかる子」「育てにくい子」といのれますが、そのような子どもに対して、親は否定的な感情をもってしまうことがあります。また、慢性疾患をもっていたり、障害があったりすると、その対応に追われて余裕がな<なり、子どもを虐待してしまう場合もあります。

D親とその子どもとの関係
 子ども虐待では、子ども全員に暴力をふるったり、不適切なかかわりをする場合もありますが、しばしば、きようだいの中の特定の子どもだけが虐待の対象となります。虐待はたんに親や家族の問題だけではなく、親とその子との関係の問題であるともいえます。例えば、未熟児のために生まれたあと数カ月間入院して、その間、母子分離の状態にあると、自分の子どもという実感がわかす、愛情を感じられなくなることがあります。

 親と特定の子どもとの間にもんだいが生じるのは、このような母子分離体験や前述の子どもの特徴によるとともに、親自身の生育歴の問題によることもあります。例えば、自分が年上のきようだいよりも差別されてきたと感じていれば、第1子に怒りが向けられることもあるのです。



2)虐待の発生の可能性を高める要因(リスク要因)と虐待を防止するようにはたらく要因(補償要因)

 上述したことは、虐待の発生にかかわのる要因で、リスク要因(虐待の発生の可能性を高める要因)といえます。若い母親であるとか、子どもが未熟児であるなどが、その例です。しかし、ここで注意しなければならないことは、リスク要因とはあくまでも虐待が発生する可能性を高める要因で、これらが複合したときに、虐待へと発展しやすいということです。

 リスク要因のあることが、必す虐待を引き起こすということではありません。若い母親であっても、立派に子育てをしている人はたくさんいますし、未熟児として生まれても、ふつうの親子関係の中で育てられていることも多いのです。ですから、リスク要因をもっているからといって、虐待と短絡的に結びつけてはいけません。

 虐待のリスク要因があっても、虐待には発展しないで、ふつうの親子関係をもつというのは、虐待を防止するようにはたらく要因(補償要因)があるからでしよう。このことについての研究はまだすすんでいないのですが、例えば、一人の親からは虐待を受けたけれど、もう一人とはよい関係にあったとか、学校などで先生や仲間とよい人間関係を経験したとか、適切な心理的治療を受けたことが、心の傷を癒(いや)し、虐待を防止するようにはたらくと考えられます。


3 虐待に気づくために

1)相談にきたときの親と子の状況
 実際に、虐待は決してまれではないことをよく認識することが大切です。相談に来所したときの親、子の態度や表情に注目する必要があります。

 以下のようなようすがみられる場合には虐待が疑われます。

(1)子どものようす
 ●内出皿によるアザがみられる
 ●身長が非常に低い
 ●攻撃的、乱暴な行動がみられる
 ●服装、顔、髪の毛、手足などが極端に不潔である
 ●親の顔色をうかがう態度がみられたり、親と顔をああわせず、沈んだようすで下をみていたりする
 ●表情が乏しい
 ●態度がおどおどしている
 ●ことばづかいや態度があまりにていねいである(子どもらしさがみられない)
 ●親が別室へいくと表情が晴れやかになる
 ●性的なことに過度の関心がある
 ●変なことをされたという
 ●男性をいやがる
 ●自殺を企てる
 ●性的逸脱行動がみられる

(2)親のようす
 ●親の子どもへの態度やことばが拒否的である
 ●子どもをしょっちゅうたたいているという
 ●子どもがなつかないという
 ●育児についての常識がない、育児の知識が偏っている
 ●子どもの過食を訴える
 ●子どもが抱かれようとしても抱き上げない
 ●ほかのきょうだいに比べて、「この子はかわいくない」という
 ●弧立しているようすがうかがえる
 ●うつ状態にある


2)それぞれの場での気づき

(1)家庭、地域で
 虐待は密室に隠されてしまいがちです。性的虐待のように家庭内でも発見がむずかしいこともあります。ですから、ちょっとしたサインを見逃さないことがとても重要です。

 以下のようなサインに気づいたら、一人で抱え込まずに、専門家や児童委員、主任児童委員などに相談したりして、子どもを守ることを考えましょう。些細なことと考えたり、虐待でなかったらどうしようと不安をもつ必要はありません。

 @虐待行為を疑わせる状況
 ●虐待行為そのものの目撃(親はしつけのためということもある)
 ●身体的虐待を疑わせる音(叩く音や叫び声など)

 A虐待を疑わせる子どもの状況
 ●不自然な傷が多い
 ●不自然な時間の徘徊が多い
 ●衣服や身体が非常に不潔である
 ●つねにお腹を空かせていて、与えると、隠すようにしてがつがつ食べる
 ●凍りついたような眼であたりをうかがったり、暗い顔をしていて周囲とうまくかかわれない
 ●傷や家族のことに関して不自然な答が多い
 ●性的なことで過度に反応したり不安をしめしたりする
 ●年齢の割に性的遊びが多すぎる、など

 B虐待を疑わせる親の状況
 ●地域の中で孤立しており、子どもに関する他者の意見に被害的・攻撃的になりやすい
 ●子どもが怪我をしたり、病気になっても、医者に見せようとしない
 ●アルコールを飲んで暴れていることが多い
 ●小さな子どもを置いたまましょっちゅう外出している、など

(2)集団生活の場で
 保育所・幼稚園・学校などで虐待が発見されることは多いはずです。
しかしながら、虐待という意識がないと、つい見過ごされてしまいます。
以下のような場合には虐待を頭において観察しましよう。

 @子どもの状態
 ≪乳児≫
 ●表情や反応が乏しく笑顔が少ない
 ●特別の病気がないのに体重の増えが悪い
 ●いつも不潔な状態にある
 ●おびえた泣き方をする
 ●不自然な傷がある
 ●時折意識レベルが低下する
 ●予防撞種や健診を受けていない、など
 ≪幼児≫
 ●表情の深みがない
 ●他者とうまくかかわれない
 ●かんしゃくが激しい
 ●不自然な傷や額屈な傷ガある
 ●傷に対する親の説明が不自然である
 ●他児に対して乱暴である
 ●言葉の発達が遅れている
 ●身長や体重の増加が悪い
 ●衣服や身体がつねに不潔である
 ●基本的な生活習慣が身についていない
 ●がつがつした食へ方をしたり、人に隠して食べるなどの行動がみら  れる
 ●衣服を脱ぐことに異常な不安を見せる
 ●年齢不相応の性的な言葉や性的な行為があられる
 ●他者との身体接触を異常に恐がる、など
 ≪学童≫
 幼児に見られる持徴のほか、
 ●万引き等の非行がガみられる
 ●落ち着きがガない
 ●虚言が多い
 ●授業に集中できない
 ●家出をくりかえす
 ●理由がはっきりしない欠席や遅刻が多い、など

 A親の特緻
 ●教師との面談を拒む
 ●孤立している
 ●被害者意識が強い
 ●苛立ちが非常に強い
 ●夫婦仲が悪い
 ●酒や覚醒剤、麻薬の乱用がある
 ●子どもの扱いが乱暴あるいは冷たい、など

(3)乳幼児健康診査
 健康診査(健診)は虐待の発見に重要な場です。しかし、大勢の子どもを短時間で見るために、よほど気をつけていないと見逃してしまいます。以下のような虐待の兆侯に十分気をつけましよう。

 また、親自身や家族が虐待をしていたり、してしまいそうな状況である時、相談することで虐待がひどくなるのを防げることがあります。子育てに不安をもっている親が相談しやすいような雰囲気づ<りも大切です。

 @問診や子どもの診察から
 ●体重増加不良
 ●脱水症状や栄養障害
 ●刺激のなさを空疑わせる発達の遅れ
 ●不潔な状態
 ●不自然な傷や火傷の跡
 ●頭蓋内出血、頻回な骨折、熱傷の既往、など

 A子どもの行動観察から
 ●言葉や行動が乱暴である
 ●着ち着きがない
 ●かんしやくが激しい
 ●表情が乏しく暗い
 ●ちよつとした指示や注意で異常に固くなってしまう
 ●衣服を脱ぐことや診察を非常に恐がる、など

 S親に対する観察から
 ●子どもの扱いが乱暴であったり、冷たい
 ●子どもの発達状況を覚えていない
 ●子どもの状態に関して不自然な説明をする
 ●母子健康手帳にほとんど記入がない
 ●予防接種を受けさせていない

(4)診察の場で
 忙しい診療の中で虐待を発見するためには医学的に説明がつきづらいことや不自然と思われることを見逃さないことが大切です。と<に、「繰り返す事故」「つじつまのあわない事故」「新旧混在する身体的外傷」「説明のつかない低身長や栄養障害」は要注意です。そのほか、以下の特徴が参考となります。

@子どもの所見
 ≪全身≫
 ●低・身長
 ●体重増加不良
 ●原因不明の脱水
 ●栄養障害
 ●内臓出血
 ●刺激が少ないことによると考えられる発達の遅れ
 ●繰り返す事故の既往
 ≪皮膚≫
 ●多数の打撲や傷
 ●不自然な傷(事故では起きがたい傷や道具を使った傷など)
 ●不自然な火傷の跡(タバコなど)
 ●不自然な皮下出血
 ●不潔な皮膚や頭髪、など
  ≪骨≫
 ●新旧混在する多発骨折(全身骨X線撮影や顔面骨のCT所見が有効)
 ●乳児の長菅骨骨折、など
  ≪頭部≫
 ●頭蓋内出血(特に膜下出血)
 ●脳挫傷、など
  ≪眼科・耳鼻科的所見≫
 ●眼外傷所見(白内障・出血・網膜剥離など)
 ●眼裔内側骨折
 ●鼻骨骨折
 ●鼓膜裂傷、など
 ≪性器≫
 ●性器や肛門周囲の外傷
 ≪精神的所見≫
 ●診察に対する不自然な不安や怯え
 ●無表情
 ●多動
 ●乱暴

 A親の態度
 ●不自然な説明
 ●説明内容がよく変のる
 ●医者をわたり歩く
 ●医療関係者に対する挑発的態度や被害的態度、など

(5)電話相談
 電話相談では、相談をする側が虐待とは気づいていない時が問題です。

以下のような相談では虐待を疑い、適切な質問をして虐待を認識させ、子どもを守る対応ができるように力づけましよう。

 @虐待を受けている子どもからの相談:虐待を受けていながら、親のことを気遣って相談したり、性的虐待などで自分が悪いと思い込んでいることがあります。子ども自身は被害者であることを認識させて、支援を受けるように力づけましよう。

 A虐待者からの相談:子育てがむずかしいということで相談してくることがあります。「子どもがいうことをきかない」「子どもが乱暴だ」などという相談があったら、「思わずすたたいてしまうこともありますか?」といった質問をして、虐待の状況を確認しましょう。

 また、親自身の自殺願望やうつ状態の相談でも、よく聞いてみると子どもを虐待していることがあります。子どもがいる時には子育てについても質問してみましよう。


 B策三者からの相談:配偶者のアルコールの問題や暴力の問題で相談があった時には、必す子どもへの虐待について質問をする必要があります。また、きょうだいや友達が被害を受けていることを知って相談してくることもあります。秘密を守ることがよいこととは限らないことを説明し、うまく支援を受ける方法について相談にのりましょう。子どもの叫び声や徘徊に文句をいってくる近隣の人には子どもを助けるために協力してもらいましょう。


3)虐待を疑ったら、児童相談所に通告しましょう

(1)子どもを心身の危険から守ることが必要です
 虐待を受けた子どもには生命や身体の危険だけではな<く精神的な障害をのこす危険もあります。

 これらの危険から子どもを守って安全を確保するには、ます児童相談所に通告することです。通告は電話でもかまいません。

 また、地域の福祉事務所や児童委員に相談してみるのもよいでしょう。


(2)疑いを大切にしましょう
 虐待はさまざまな形で隠されます。疑いをもったことは重要なことです。大切に。


(3)自分で証明する必要はありません
 虐待を証明することは困難です。間違っていたらどうしょうと思うことは多いのですが、確証を求めていては子どもを守れません。まずは相談や通告などの行動をおこしましょう。きっかけはたんなる疑いでも、関連する場からの情報が集まることで、確証に近づけることもあります。


(4)一人で抱え込むのはやめましょう
 虐待への対応はむずかしいものです。虐待を疑ったら、−人で抱え込まず、同じ職場の同僚や他の期間と連携をして知恵を出しあいましょう。


(5)すべてを他人任せにするのはやめましょう
 通告をしたからといって、すべてを他人任せにしていては子どもを救えません。サインを受け取ってくれた人こそが子どもにとって頼みの綱です。専門機関と連携をとりながら、子どもを守る努力を続けましょう。


(6)記録にのこしましょう
 後で役立つことがあります。できるだけ記録(ビデオ・写真・テープを含む)にのこしましょう。医療の場では問診や所見を細かく記載し、身体的虐待が疑われる時には全身骨X線などを撮っておくことが望ましいといえます。


4)緊急度の高い場合
 早急に保護するなどの緊急的な対応が必要な場合があります。緊急度は総合的に判断する必要があります。以下の項日を参考にしながら、ケースごとに考えてください。

 ●生命の危険がある時:頭蓋内出血・溺水・内臓出血など
 ●身体的障害をのこす危険がある時:骨折・眼科的障害・熱傷など
 ●乳幼児期で身体的虐待が繰り返されている時
 ●極端な栄養障害や慢性の脱水傾向がある時
 ●親が子どもにとって必要な医療処置を取らない時(必要な薬を与えない、乳児下痢を放置するなど)
 ●子どもの家出や徘徊が繰り返されている時
 ●虐待者が覚醒剤を使っている時
 ●虐待者が非常に衝動的になっている時
 ●性的虐待が強く疑われる時


4 発見から援助までの流れ

1)虐待を疑ったときこから、相談・施設入所までの流れ


2)通告した後どうなるか

(1)情報を収集します
 通告を受けた専門機関は、他の機閑と連携し、できるだけ早期に情報を収集します。児童相談所の職員等には守秘義務があり、通告者が虐待者に通告の事実を知られたくない時など、フライパシーには十分な配慮がなされます。心配せす、できるだけ協力しましょう。

(2)子どもの安全を確保します
 それと平行して子どもが置かれた危険性を判断し、必要な時には入院や児童相談所での一時保護などで、子どもの安全を確保します。危険な時には親権者の同意が得られない時でも一時保護をすることができます。また、児童相談所は警察や病院や特定の個人に一時保護を委託する場合もあります。

(3)今後の対応を判断します
 安全を確保したうえで、児童相談所が親と子を長期に分離する必要があるかどうかを判断します。

(4)分離することが必要なときは施設入所させます
 できるだけ親権者の同意のもとに入所させる努力をします。しかし、子どもを守るためには、同意がなくても、児童相談所が申し立てをし、家庭裁判所が妥当と判断した時には、親から分離して施設入所させることができます。この場合でも、子どもが入所した施設や地域による家族全体への支援が大切です

 施設入所は虐待の対応の終結ではなく、始まりです。

(5)分離する必要がないときには地域で支援します
 地域の機関が連携して、それぞれの役割を担いながら再び虐待が起きないように家族を支援します。その過程で子どもに危険が生じた時には、速やかこ保護します。


3)施設でどういうケアを受けるのか

(1)子どもへのケア
 施設に入所した子どもには施設職員の手で、安全で、必要なケアが与えられます。子どもの安全が守られることはもちろん、十分な栄養、清潔な環境、愛情などが与えられ、子ども同士のかかわのりも体験することができます。そのような環境で、子どもの表情は豊かになり、成長や発達も促進されることが多いものです。

(2)親へのケア
 親に対するケアを行って、虐待のない家族として一緒に暮らせるように支援をする必要があります。

 施設と児童相談所が協力して行いますが、親の協力が得られないことも多く、ねばりづよい作業が必要です。

(3)親子関係への支援
 施設での職員と子どものかかわり方を親に観察してもらったり、親子の面接に施設や児童相談所の職員が同席して、かかわり方を助言することが望ましいものと思われます。

(4)総合的なケア・プロクラムの必要性
 子ども・親・その他の家族にどのような目標でどんな支擾をしていくのか、役割をどのように分担するのかといった総合的な計画が必要です。施設や児童相談所だけではなく、地域の機関や人々が連携してあたることが求められています。

 虐待により家庭から分離された子どもは、一般的には1歳末満児であれば乳児院へ、1歳をすぎていれば養護施設に入所することになります。

 この他にも、子どもの特性に応じて情緒障害児短期治療施設や各種の障害児施設などへ入所することもあります。

 乳児院には保育士や看護師などが配置され、24時間体制でのケアがなされています。また養護施設では保育士や児童指導員などが配置されていて、起居を共にしながら子どもとの集団生活がなされることになります(学齢児は施設から地域の学校へ通うことになります)。

 情緒障害児短期治療施設は全国に16ケ所と数は少ないですが、心理セラピストが配置されていて子どもの心理療法が可能であること、通所して処遇を受けられることが特徴です。

 被虐待児にとって、施設のもつ意味は、まず安全な環境が保障されるということにあります。このことにより、子どもの心身の安定が保たれ、身長や体重の増加が促進されることも少なくありません。また、子どもの安全を保障することにより、行動の安全が図られ、親子関係の修復のきっかけとなることも少なくありません。

 また、保護者にとっても養育の負担や緊張から解放されて、子どもに対する気持ちに余裕がうまれることもメリットです。施設にいる間に、この両者の関係を双方のサポートにより修復することが大切な課題になります。


                 省 略


6 関係機関の役割

(1) 関係機関の種類と役割

(1)保育所
 仕事や病気、妊娠・出産、親族の介護などのために、家族の力だけでは子どもの世話を充分にできない場合に、0歳から小学校入学前までの子どもの保育を行います。

 保育時間は、朝7時頃から夕方8時頃までがー般的ですが、それ以降の「延長保育」を行う保育所もあります。

 仕事を探したり職業訓練を受けている間も利用できる場合があります。また、週2〜3日の保育が必要な場合や、冠婚葬祭、病気などで急に保育が必要な場合に利用できる「一時的保育」を実施しているところもあります。

 育児の疲れを癒(いや)すために一時的保育をう活用することもできます。毎日子どもとだけ向き合って子育てに負担や不安を感ずる時など、育児から一時的に離れることで気持ちのゆとりができます。さらには、保母や他の保護者との交流から人間開係が広がるかもしれません。

 保育所の利用を希望する場合は市区町村の担当窓ロに問い合わせてください。保育料の一部を負担する必要があります。

 保育所の保母は子育ての専門家です。経験豊富な保母や園長などが子育ての相談に応じています。電話相談や訪問相談を行っているところもあります。保育所を利用していない方の相談にも応じています。相談は直接、地域の保育所に問い合わせて下さい。

(2)福祉事務所、家庭児童相談室
 福祉事務所は社会福祉の相談に応ずる行政機関です。社会福祉主事が配置されてあり、経済的な困難や、障害、病気、老後の生活などに関する相談のほか、子育てや家族関係の相談も受け付けます。

 福祉事務所の多くには家庭児童相談室が設置され、社会福祉主事や家庭相談員が配置されています。子どもの生活習慣、知能や言語の発達、学校生活、家庭内のことなど、家族や子どもに関する相談に幅広く応じます。全国に960以上の家庭児童相談室があり、身近に利用できるのが特徴です。

 福祉事務所は、ひとり親家庭に関しても、生活全般にわたって相談に応じます。経済的問題、就職、住宅、子育てなどの相談のほか、母子寮への入所希望も受け付けています(母子寮は母子が一緒に入寮できる施設で、生活面や子育てなどに関して幅広い援助を受けられます)。

 専門的な検査や診断を必要とする場合、虐待やネグレストなどが疑れれる場合には、福祉事務所から児童相談所に連絡します。したがって、近所の人や児童委員、主任児童委員、その他の専門家などが子どもの虐待やネグレストなどを発見した場合、福祉事務所に通告することもできます。

(3)児童委員、主任児童委員
 子育てには家族や行政の力だけでなく、地域の力が大切です。地域の人々に見守り支えられてこそ、安心して子育てができます。その地域の力を代表するのが児童委員です。

 児童委員は、全国に約19万人いる民生委員が兼務しています。そのため、民生児童委員と呼ぼれることがあります。1994年には、子どもの相談を専門に担当する主任児童委員が設けられました。

 最近は、近所のつきあいが少なくなり、子育てをする家族は孤立しがちだと言われます。そんな時に、民生児童委員が直接相談相手になったり、または親同士のつながりを作ったりします。

病気や経済的困難、子どもの非行など、困難を抱えながら、情報不足や不安から必要なサービスを利用していない家庭もあります。そのような時、適切な情報を提供し、相談に応じるとともに、サービスを提供する機関につなげます。

 児童委員は、自宅に札を掲げていますが、判らない場合は、市区町村の児童委員担当系に問い合わせて下さい。なお、児童委員、主任児童委員には個人のフライパシーの保護等に配慮することが義務つけられています。

(4)乳児院
 子どもを保護者のもとで養育することがむずかしい時に、1歳末満の乳児に生活の場を提供します。必要な場合には、2歳になるまで引き続き乳児院で養育することができます。

 乳児期は健康や栄養の面でとくに専門的な対応が必要な時期なので、看護婦、保母、医師、栄養士、調理員が配置されています。

 乳児院は身寄りのない子どもを預かる施設だとのイメージガありますが、近年は、親がいる子どもの入所が約9割となっています。乳児院は、児童相談所などと協力をして、子どもが家庭に戻って生活できるように援助します。

 長期の入所だけでなく、出産や傷病、看護や出張などの場合には、1か月末満の短期の入所も可能です。 ベビーホテルなどを長期に利用せざるを得ないような状況の時、乳児院の利用も検討してみて下さい。

 さらに、育児不安などに対応するために、7日以内の短期利用モデル事業を始めている市町村もあります。

 乳児院の利用を希望する場合には、児童相談所に相談をしてください。 また、育児体験教室など、乳児に接する体験の機会を提供している乳児院もあります。乳児に接する機会が少ないために育児に不安を感じている場合などは、各乳児院に問い合わせて下さい。

(5)養護施設
 子どもを保護者のもとで養育することがむすかしい時に、子どもに生活の場を提供します。子どもは施設に寝泊まりし、日中は地域の小・中学校、高校、専門学校などに通います。対象は18歳までですが、必要な場合には20歳になるまで入所期間を延長できます。

 養護施設には、保母や児童指導員がいて、日常の生活場面での細やかな配慮により子どもたちの心の傷を癒(いや)し、成長を援助します。

より専門的な個別援助(トリートメント)が必要な場合には、児童相談所などの協力を求めます。

 家庭での養育がむずかしいと感じられる場合には、しばらく困難な状況から距離を置いて、家族や子どもがそれぞれに新しい方法を使って困難に対処してみることも重要です。

 身寄りのない子どもたちの親代わり、家庭代のりともなっている施設ですが、親がいる場合には、養護施設は児童相談所と協力して、週末の面会や外出、夏休みや春体みの一時帰宅などにより、親子関係を深めつつ、最終的に子どもが家庭に戻って生活できるよう援助します。

 長期の入所だけでなく、7日程度の短期の利用や、夕方から夜にかけての利用ができる施設もあります。

 施設の分園として一般の住宅において4、5人の子どもをケアするグループホームも試みられています。

 家庭での養育がむずかしいと感じられる場合には、児童相談所に問い合わせて下さい。

(6)里親
 家庭での養育がむすかしい時、その子どもを乳児院、養簑施設ではなく、里親に委託することもあります。

 里親制度は、家庭での養育に欠ける子どもに、温かい愛情と正しい理解をもった家庭を与えることにより、子どもの健全な育成を図ろうとするものです。

 里親とは子どもを一時的または継続的に自己の家庭にあずかり、養育することを希望する者であって、都道府県知事が適当と認めた者です。

 里親の中には、養子縁組を希望する人もいますが、その子の生まれた家庭の状況が整うまで、ある期間あずかろうとする人もいます。

 里親は、施設の児童指導員や保母のような専門家ではありません。子どもを養育することへの理解と熱意をもつっ人です。虐待を受けてきた子どもはさまざまな問題行動をあらわすことがあり、養育にあたって困難を感じることもおきてきます。里親家庭に対する周囲lの人たちの理解と支援も欠かせません。

(7)障害児施設
 身体の機能や知的機能、聴覚や視覚などに障害をもった子どもの成長や発達を保障するために専門的な援助を提供します。通所施設と入所施設があります。

 子どもが障害をもっていると、育児の負担も大きくなりがちです。また、精神的な支えも必要です。障害児施設を利用することは、子どもにとっては必要なサービスを得る機会になりますが、家族にとっては心や身体の負担を軽減する時間にもなります。また、施設を利用する保護者同士の交流が精神的な支えになるかもしれません。

 専門家からの援助を得て、障害についての理解を深めたり、将来の見通しをもつことも、子育てに余裕をもたらすかもしれません。また、個々の場面での子どもの言動を理解し対応するためにも、施設の職員の専門性を活用して下さい。

 なお、障害をもった子どもがすでに虐待を受けている場合は、障害児施設への入所が必要になるかもしれません。
 障害児施設に閑する問い合わせは、児童相談所まで。

(8)保健所・保健センター
 保健所や保健センターは、地域の保健や衛生などに閑することに幅広くかかわります。

 母親学級や乳幼児健康診査(健診)などをとおして、子育て家庭には身近な存在になっています。妊産婦や乳幼児のいる家庭を保健婦が訪問することには抵抗感が少ないので、家庭内での子育ての様子を把握しやすい立場にあります。また、健康診査は、子どもの発育や、ことばや心身機能の発達などの問題を発見するのにも良い機会です。

 訪問や健康診査などで援助の必要が感じられた子どもや家族には、継続的な援助を行います。個別相談のほか、親子で参加できるグループ活動を実施しているとこるもあります。また、孤立した子育てにならないように親同士のグルーフ活動を支援しています。

 保建所では、アルコールの問題や精神障害など精神保健面の援助も行っているので、様々な課題を抱えた家族を総合的に援助する際には保健所との連携が有効です。

 平成9年度から、3歳児健康診査も含めて母子保健の基本的なサービスは、各市区町村の保健センターが中心になって行います。しかし、低出生体重児(未熟児)、障害や疾病などをもった子どもに関しては、引き続き保健所が中心となって療育などの援助をします。発育や発達に不安があると育児の負担も大きく、虐待などの危険性が高まるという報告もあります。保健所の援助がとくに重要となります。

    省 略

(12)児童虐待防止協会、子どもの虐待防止センターなど
 虐待やネグレストなどへの対応に関心を持っている専門家やボランティアが集まって活動する民間団体です。

1990年に大阪で「児童虐待妨止協会」が発足し、1991年には東京に「子どもの虐待防止センター」が、1995年には名古屋市に「子どもの虐待防止ネットワーク・あいち」ガ発足しました。このように、全国各地で専門家やボランティアによる子ども虐待への取り組みがはじまっています。

 各団体には、福祉、保健、医療、心理、法律等の専門家も参加しています。児童相談所と連携を図りながら活動を推進することが期待されます。

2)連携、協力のポイント

(1)一堂に会することの必要性

 虐待への対応では迅速に関係者が認識を共有することが不可欠です。それぞれの関係者が一対一でコミュニケーションをとっていても、時間がかかるばかりで成功しないことが少なくありません。とくに、対応が困難な時や多機関の連携が必要な時には、できるだけ関係者が一堂に会して、認識を高めあうことが大切です(この会合をネットワークセッションということもあります)。

 このような会合では以下の点に留意しましよう。

 @できるだけ多くの関係者を一堂に集める
 Aもっとも危機感を持つている人の意見を尊重する
 B具体的な対応を中心に議論を進める
 C役割分担を明確にしてキーバーリン(要となる人物)を定める
 D具体的な対応策に関して、期待できる点と危険性を明確にしておく
 E具体的な対応に関してタイム・リミットを定める
(タイム・リミットがきたら、予定どおりに進んでいるかチェックするための連携の会合を再び開く
 F計画がうまく進んでいない時には速やかに計画を見直す
 G議論の中で不明な点がでてきたら、躊躇せすに虐待の専門家(児童相談所、あるいは虐待事例についての経験の多い弁護士、虐待に対応してきた民間団体など)に意見を求める

(2)子ども中心に考える原点を大切にする
 連携や協力にばかり目を向けていると、大人中心の考え方になってしまうことがあります。つねに子ども中心に考えているか、自己チェックをしていく必要があります。


2)援助のポイント

(1)親や家族への支援
 @つねに目をかけている
 地域で連携しながら、つねに暖かい目で家族を見続けることが大切です。子育てに対する温かいねぎらいのことばをかけましよう。誰かの関心を得ているだけでも虐待の抑止力になりますし、孤立感も少なくなります。また、いつでも相談できるという安心感は家族が追い詰められるのを防ぎます。

 A家族を悪者扱いしない、虐待者を責めない
 虐待をしてしまう家族にはそれなりの理由があります。また、虐待をすることで子どもの行動に問題がでてきて、より育てにくくなるといった悪循環もあります。虐待をしてしまって親としての自信を失うことも悪循環に寄与しています。したがって、虐待をする人を責めても解決にはなりませんし、逆効果です。子育ての大変さに共感されることで親としての自信を回復し、心を開いて自分を変える努力をすることができるのです。

 B親が子どもの行動を理解するのを助ける
 虐待を受けた子どもは、乱暴、かんしゃく、反抗、落ち着きがない、非行などの行動上の問題をもちやすいものです。それゆえに「しつけ」という名の虐待が繰り返されてしまうことがよくあります。恐怖をともなう「しつけ」を繰り返しても行動上の問題は解決しないことを説明し、「ほめる」などの別の形の対応を試すことをすすめましよう。

 C虐待が起きないために具体的に取れる方法を家族と一緒に考える
 虐待をひき起こさないためには、「お酒を飲まない」「親と子どもが二人きりになるのを避ける」などといった、具体的で実現可能な方法を考え、実現できた時の達成感を育てるよう援助しましよう。

 D児童相談所などへの相談
 親や家族の行動が理解の範囲を越えている時には、児童相談所や保健所などの専門機関に相談をする必要があります。

 E具体的な子育て支援の方法を考える
 親の育児能力や子どもの問題で適切な育児が困難な時には、保育所に預ける、ヘルパーを派遣する、家庭訪問を頻回にする、などといった具体的支援も大切です。


(2)子どもへの支援
 @子どもの自信をつける
 虐待を受けている子どもは自分のせいだと思いがちで、自信をなくしていることが多いものです。誰かに認められることで子どもは大きく変るものです。

 A子どもが安心して気持ちを話せる場をつ<る
 受けいれられることで、自分の気持ちを素直に話せるようになります。

 話すことが癒(いや)しにつながります。

 B再び虐待を受けないための治療教育
 虐待を受けた子どもはその行動の特徴ゆえに、別な人からも同じような虐待を受けてしまう可能性があります。年長の子どもに対しては、叩かれそうになったら、近所の人に助けを求める、性的虐待を受けた子どもには自分の身体を守る教育をするなど、できる範囲で具体的な教育を行うことも重要です。

 子どもの問題いかんによっては、児童相談所、保健所・保健センター、医療機関、教育研究所などに相談するのもよいでしよう。



  おわりに

 この「子ども虐待防止の手引き」は、福祉事務所職員、保健所・保健センターの保健婦、警察官、学校の教師、幼稚園教諭や保育所保母、医療機関の医師・看護婦、ソーシャルワーカー、児童委員、主任児童委員など、地域において子ども虐待を発見し、児童相談所と連携をとりながら、相談、支援を行う人を対象として作成したものです。

◇子ども虐待は、決してまれなできごとではありません。
◇子ども虐待への対応はしばしばたいへん困難難です。
◇子ども虐待は、福祉、保健、医療、教育、警察、司法など、多<の領域の人たちがかかわる問題です。
◇子ども虐待は、一個人、一機関での対応で解決するものではなく、多くの人、機関の連携が不可欠です。
◇子ども虐待の疑われるケースを発見したときは、できるだけはやく児童相談所に通告や相談をしましよう。

 わが国では、子どもは親の所有物とみるような考え方がなされてきました。しかし、「児童の権利に関する条約」(子どもの権利条約)に明示されたように、子どもも権利の主体者であります。子ども虐待は子どもの権利1侵害のもっとも重大なできごとといえます。

 この小さな「手引き」が、子ども虐待への理解を深め、よりよい対応に資することにより、子どもの権利が守られ、さらに子どもと親のウエルピーイング(人権の尊重、自己実現)の契機になることを希望します。


                     子ども虐待防止の手引編集委員長
                      巳本総合愛育研究所長
                           平山 宗宏